【英語論文の書き方】第8回 受動態の多用と誤用に注意

2016年6月14日 15時53分

※今月は興野先生のご都合がどうしてもつかなかったため、ピンチヒッターにお願いしました。アメリカの大学で留学生たちに英語での論文の書き方を教えていた方です。


From Keiko Schlabach (フリーランス翻訳者・英語教材開発者)

科学論文においては、他の分野に比べ頻繁に受動態がつかわれます。「私」や特定の研究者の名前を主語に出さないことで、事実に焦点を置いた客観的な響きの文を書くことができるからです。

しかしそのように便利な受動態も、使い過ぎると意味が不明瞭になったりメリハリのない文になったりします。

こちらの英文をご覧ください。

Muscle contractions in live people can be imaged by the new microscope. Scientists will be helped to better understand how human muscles work by this technology.

次の英文は上記の文を能動態に書き直したものです。
比較しながら読んでください。

The new microscope can image muscle contractions in live people. This technology will help scientists better understand how human muscles work.

どちらも内容はほぼ同じですが、後者の方が、文の意味が頭にスッと入ってきたはずです。

それは、能動態をつかった文では「誰が(主語)」「何をしたか(動詞)」が明確だからです。主語と動詞が明確だと、書き手の伝えたいことが読み手の頭によりクリアに届きます。

論文に限らず、日本人の書いた英文には受動態が多く登場する傾向があります。ただ「なんとなく」受動態をつかってしまうことはありませんか?

今回の記事では、

I. 受動態とは
II. 受動態が効果的なケース
III. よくある間違い

を例文と演習も含めてご紹介し、本当に適切な場面においてのみ受動態がつかえるようになるヒントをお伝えします。
 

1) 受動態とは

次の文を受動態に書き換えてください。

A dog bit me.

正解はI was bitten by a dog. です。

能動態の文を受動態にする方法は次の通りです。

① 動作の受け手を主語にもっていき、
② 動作の行い手をbyのうしろにもっていき(省略可能)、
③ 動詞をbe動詞+過去分詞の形に変える(時制に注意!)




中学校・高校の授業で習った方も多いと思います。

ただこのような問題は、どんな文も受動態に書き換え可能であり、さらに、能動態であっても受動態であっても読み手に伝わる意味には変わりがないという印象を与えます。

これは間違いです。

受動態の文では、動作の行い手から焦点が外され、逆に動作の受け手が主語になることで、受け手に焦点が向けられます。

A dog bit me. でもI was bitten by a dog. でも、犬が私を噛んだという事実に違いはありませんが、どの情報が話の焦点か、つまり、書き手がどの情報をより伝えたいのか、が変わってくるのです。

A dog bit me. では、私を噛んだのは「犬」であることが強調されますが、I was bitten by a dog. では、犬に噛まれた「私」が強調されます。 受動態をつかった文を書く際には、この「焦点が動作の行い手から受け手へシフトする」という受動態の性質を理解しておかなければいけません。

逆にその性質を利用すれば、効果的な受動態の文を書くことができます。

 

2) 受動態が効果的なケース

英文を書く際に、あえて能動態ではなく受動態を選んでよいのはどんなときでしょうか。

以下に4つの主なケースをご紹介します。

ケース1:動作の行い手が不明
Bronze was discovered in the prehistoric time.

受動態では、byに続く動作の行い手を省略することができます。よって、ブロンズの発見者が不明のこのケースのように動作の行い手がわからない場合、受動態をつかうことで重要な情報がすんなりと表現できます。

ケース2:動作の行い手が一般的、または誰にとっても明らか
Isaac Newton is often considered the most influential scientist in history.

ニュートンがもっとも影響力のある科学者であると考えているのは特別な誰かではなく「一般の人びと」です。このように動作の行い手が明らかでいちいち言及する必要がない場合は受動態をつかうことができます。

ケース3:動作の行い手を意図的に隠す
An error was made during the process.

能動態の文では「誰が」「何をしたか」が明確であると述べました。だからこそ英文を書く際には能動態を中心につかうべきなのですが、ときには「誰が」の部分を明確にしたくないこともあるかもしれません。そんなとき受動態は便利です。

ケース4:動作の行い手ではなく動作の内容を強調する
The solution was added to the test tube, and the mixture was heated for 15 minutes.

科学論文で受動態が多く使われるのはこのケースです。実験の方法を説明する際に重要なのは、どのような器具がつかわれたかやどのような作業が行われたかという情報であり、誰がそれを行ったかという事実ではありません。

逆に、通常受動態がつかわれるこのような場面で能動態をつかい “I added the solution to the test tube, and I heated the mixture for 15 minutes.” とした場合、その主語である「私」が強調され、「私がこれをして、さらに私はこんなこともしたんです。」と、自分をアピールする文になってしまいます。動作の中身に焦点をあてるのに受動態はうってつけです。


 

3) よくある間違い

学術論文を書く際、科学分野であっても基本的には能動態をつかうことを心がけるべきです。

その一番の理由は、冒頭で述べたように、能動態で書かれた英文はわかりやすく説得力があるからです。

ここで英語のノンネイティブスピーカーにとってはいまひとつの理由があります。
それは、受動態をつかうことで不必要な文法のミスが増えるということです。

以下の文にはそれぞれどのような間違いが含まれているでしょうか。

a. A research proposal was drew up and submitted to the committee.
b. A follow-up study is been conducted at the WTS Research Institute.
c. The protein level was peaked at twelve hours.

aでは、be動詞 wasの後にdrawの過去分詞形の drawnではなく過去形のdrewがつかわれています。
2つ目の動詞submitは過去形も過去動詞形も同じsubmittedなので正しいです。
過去分詞形が何だったか100%自信が持てない時は、しっかり辞書で調べて正しい形を使いましょう。

時制が単純現在のとき受動態は “am/is/are + 過去分詞”、単純過去のときは “was/were + 過去分詞” とシンプルです。

ところが、進行形、完了形となってくると話がややこしくなります。

bの内容を能動態で表現すると “The WTS Research Institute is conducting a follow-up study.” と現在進行形の文になります。現在進行形が受動態になると “be動詞 + being + 過去分詞” の形をとります。

というわけで正しくは “A follow-up study is being conducted at the WTS Research Institute.” です。

ちなみに、完了形の場合は “has/have+ been + 過去分詞”の形をとります。
cは「タンパク質量が12時間で最大に達した」という意味の文です。

ここではwas peakedと受動態がつかわれていますが、タンパク質量が誰かによってピークに達せられたわけではなく、達したのですね。

正しくは “The protein level peaked at twelve hours.” です。

このように、主語が実際には動作の行い手であるにもかかわらず、動詞が受け身になっているのはとてもよくある間違いなので気を付けてください。

受動態をつかうことで出てくる上のようなミスは、もともと複雑な受動態の文をさらにわかりにくいものにしてしまいます。
受動態をつかうと決めたら、ミスのないようしっかり見直しましょう。


 

4) まとめ

受動態をつかうと、動作の行い手から受け手または動作そのものの内容に焦点がシフトされます。

これを理解せずに受動態を多用すると、意味が不明瞭になるばかりか、知らず知らずのうちに間違った情報を読み手に伝えてしまう可能性があります。
また、能動態の文ではあり得なかったミスも増え、読み手はますます混乱してしまいます。

英語で論文を書く際は、受動態を本当に使うべき場面でのみつかっているか、能動態で書いた方が意味が正確にそしてより明確に伝わりはしないか、を常に意識してください。

わかりやすい英文を書くには、基本は能動態です。

受動態はその本質を理解したうえで効果的につかうものとし、読み手がすっきりと理解できる論文を目指してください。

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執筆者紹介 Keiko Schlaback(ケイコ シュレバック)氏



フリーランス翻訳者/英語教材のライターおよびエディター。
サンフランシスコ州立大学やボストンのNortheastern University内の語学学校で英語を学ぶ外国人に講師として英語の論文の書き方やコミュニケーションスキルを教えていた方です。

現在はフリーランスの翻訳者・英語教材の開発者として日米の民間企業で活躍中。

講師時代はClassroom teacherとしてとても人気があり、語学学校のセンター長からも厚い信任を寄せられていた方です。

2007年-2009年 サンフランシスコ州立大学American Language Institute勤務。
2009年-2011年 College of Professional Studies, Northeastern University勤務。
2010年-2013年 International Language School, Education First勤務。


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