【英語論文の書き方】第25回 総称表現 (a, the の使い方を含む )

2016年9月6日 10時09分

例えば「トランジスタは広く電子機器に使われている」という日本文を英訳する場合、
この「トランジスタ」に対する英語は a transistor、the transistor、transistorsの
どれが適切なのでしょうか?

このような場合、「トランジスタ」に対応する英語表現は、内容全体を考慮して
選択する必要があります。

そこで今回はこのような英語表現に役立つ「総称表現」と呼ばれる概念と使用法を紹介します。

1. 総称表現の概念と方法

総称表現とは1つのグループを、その1つの構成要素あるいは複数の構成要素を用いて
グループ全体を代表する表現法のことです。

一般に下記の3つの方法が知られています。
(1)  a/an + 単数名詞
(2)  複数名詞
(3)  the + 単数名詞
 
(1)   a/an + 単数名詞
この表現では、グループ内の任意の1つの構成要素を用いてグループ全体を代表させます。
構成要素が不特定ですから、この表現で使用される不定冠詞a/anは、実質的にanyの意味になります。
したがってこの方法が総称表現として使えるのは、表現される内容がグループの
すべての構成要素に当てはまることが条件です。
 
(2)   複数名詞
この表現法ではグループ内の複数の構成要素を用いてグループ全体を代表させます。
複数に構成要素を用いることから、この総称表現は必ずしもグループ内のすべての
構成要素について当てはまる必要はありません。
したがって総称表現としては「すべてに当てはまる必要がある」と言った制限がないことから、
総称表現として最も良く使用されています。
 
(3)   the + 単数名詞
 a/an + 単数名詞と同様この表現法でも、グループ内の任意の1つの構成要素を用いて
グループ全体を代表させます。

ただし、定冠詞theを用いていることから、グループ内の構成要素で特定される部分、
つまりグループ内の各要素で共有している部分についての総称表現ということになります。

そのため日本語では、一般的に「~というもの」と訳されています。
したがってこの総称表現が使えるのは、表現される内容がグループ内のすべての構成要素に
共通していることが条件になります。

2. 総称表現の具体例

次に総称表現の使い方を、解説を含めて具体例を幾つか紹介します。
 
(1)  a/an + 単数名詞

原文1:立方体には面が6つある。
<訳例> A cube has six surfaces.

[解説]どの立方体であれ立方体には6面が存在します。
したがって原文の「立方体」は a cubeと表現されます。
 
原文2:雲は空中での大量の蒸気の集まりである。
<訳例> A cloud is a mass of vapor in the sky.

[解説] 雲はどんな雲であれ水蒸気の集まりです。
したがって原文の「雲」は a cloudと表現されます。
 
原文3:弾力性のある物質はもとの形に戻る。
<訳例> An elastic substance returns to its original shape.

[解説] 弾力性のある物質は、ある特定範囲内であればどんな物質であれ、
もとの形に戻る性質があります。

したがって原文の「弾力性のある物質」は an elastic substanceと表現されます。
 
(2)  複数名詞

原文1:鉄を含むものは磁石に張り付く。
<訳例> Things that contain iron stick to a magnet.

[解説] 基本的に鉄を含むものは磁石に張り付きますが、含まれる鉄の量や、
磁石の強弱によっては張り付かない場合もあります。
したがって原文の内容はすべてに当てはまらないことから、「もの」は
thingsのように複数形で表現されます。
 
原文2:パソコンは,日常の仕事に大いに役立つ。
<訳例> Personal computers are very helpful in our daily jobs.

[解説] パソコンは基本的に役に立つものではありますが、役立つかどうかは
インストールされているソフトに依存します。

つまりパソコンであればなんであれ、日常の仕事に役立つというわけではありません。
したがって原文の内容はすべてに当てはまらないことから、
「パソコン」は personal computersのように複数形で表現されます。
 
原文3:トランジスタは広く電子機器に使われている。
<訳例> Transistors are widely used in electronic devices.

[解説] トランジスタは基本的に電子機器に使われていますが、
トランジスタであればなんであれ、電子機器に使える訳ではありません。
したがって原文の内容はすべてに当てはまらないことから、
「トランジスタ」は transistorsのように複数形で表現されます。
 
(3)  the + 単数名詞

原文1:エジソンは1877年に蓄音器を発明した。
<訳例> In 1877, Thomas Edison invented the phonograph.

[解説] 蓄音器は1877年にエジソンが発明したものですが、その後、
いろいろな種類の蓄音機が出現しました。

しかしどれも蓄音機であることに変わりはありません。
したがってエジソンは、その後発売される多くの「蓄音機」に共通な
「蓄音機というもの」を発明したわけで、その意味で原文の「蓄音機」は
the phonographと表現されます。
 
原文2:電子は、原子の中に見られる負の電荷を持った基本粒子である。
<訳例> The electron is a fundamental particle with negative electric charge
that is found in atoms.

[解説] 物質は原子から構成され、原子には多くの種類があります。
電子はその原子を構成する基本粒子の1つであり、すべての原子に含まれています。
そこでこれらのすべての原子に共通に含まれる電子、つまり「電子というもの」の意味で
the electronと表現されます。

したがって原文2の内容は、すべての原子に含まれる電子について共通な内容である必要があります。
 
原文3:心臓は、体内で血液を循環させる一種の自然のポンプである。
<訳例> The heart is a kind of natural pump that circulates the blood
throughout the body.

[解説] ここでの心臓は、人間の誰もが持つ心臓を表しています。
つまり、すべての人間が共通に持っている「心臓というもの」の意味で the heartと表現されます。
したがって原文3の内容はすべての人間に共通な内容である必要があります。
なお、人体の臓器はすべてthe + 名詞の形で表されます。

3. 総称表現法の選択法

総称表現について注意すべきは、まず表現すべき内容がグループとして考えられる
内容であることが必要です。

その上で、内容を考慮して
(1) a/an + 単数名詞、(2) 複数名詞、(3) the + 単数名詞
のどれを使うか決定します。

このためには各総称表現法によって表すことのできる内容を正確に理解しておくことが
重要になります。

例えば下記の例では (2) 複数名詞を使った<訳例2>が正しい英訳になります。
 
原文:誘導電動機は洗濯機に使用される。
<訳例1> ×An induction motor is used in washing machines.
<訳例2> ○Induction motors are used in washing machines.

[解説] 「誘導電動機は洗濯機に使われる」という内容を、
「誘導電動機はなんであれ洗濯機に使われる」と言い換えることはできません。
というのは、例えば小型の誘導電動機であれば洗濯機に使用することは難しいと思います。
したがって<訳例2>のように「(多くの) 誘導電動機が洗濯機に使用される」と
解釈して訳すのが正しい英訳になります。

まとめ

以下に総称表現の3つの方法についてまとめました。

総称表現の3つの方法
(1)   a/an + 単数名詞
・任意の1つの構成要素を用いてグループ全体を代表させる。
・すべての構成要素に当てはまる。

(2)   複数名詞
・複数の構成要素を用いてグループ全体を代表させる。
・グループ内のすべての構成要素について当てはまる必要はない。

(3)   the + 単数名詞
・任意の1つの構成要素を用いてグループ全体を代表させる。
・すべての構成要素に共通な内容に当てはまる。
 
 

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執筆者紹介 興野 登(きょうの のぼる)氏

興野 登氏三菱電機株式会社を経て現在ハイパーテック・ラボ代表
1971年,東北大学工学部電気工学科卒業
2005年,熊本大学大学院自然科学研究科卒業
博士(工学)

日本工業英語協会理事・副会長・専任講師
日本工業英語協会日本科学技術英語教育センター長
中央大学理工学部非常勤講師(科学技術英語,Academic Writing & Presentation)
東京工業大学大学院非常勤講師(Academic Writing)
東京電機大学大学院非常勤講師(Academic Writing & Presentation)
元英語翻訳学校講師(技術翻訳)
元音響学会,電子情報通信学会,AES (Audio Engineering Society) 会員

テクニカル英語の翻訳者として幅広く活躍。
30年以上に渡り電機メーカーにてスピーカーを中心とした音響技術の研究開発に従事。この間,多数の海外発表や海外特許出願を実施。 会社を早期に退職し,神奈川工科大学大学院、日本大学,神田外語大学,上智大学,中央大学、東海大学,東京工業大学等にて音響工学および技術英語の教鞭をとる。

テクニカル・ライティングは工業英語協会の中牧広光氏に師事し、企業や大学等での研修も多数受け持つ。
工業英検1級、実用英語技能検定1級(優秀賞)、通訳案内業ライセンス保持。
 

最近の実績

1. 2013/09/18 「科学英語論文スキル・セミナー― How to Brush Up Your Academic Writing Skills―」(名古屋大学)
2. 2013/10/02 「科学英語論文スキル・セミナー― How to Brush Up Your Academic Writing Skills―」(IEEE, GCCE2013, Tutorial)
3. 2013/12/25 「理工学学生を対象とした英語論文ライティング入門」(山口大学)
4. 2014/01/21 「科学技術英語ライティング」(名古屋大学)
5. 2014/05/21 「科学論文英語スキルセミナー」(名古屋大学)
6. 2014/10/08 “Concept of 3C’s in Academic Writing and Practical Academic Writing Skills for Students and Researchers in the Fields of Science and Technology”, IEEE, GCCE2014, Tutorial
7. 2014/12/02 「英語論文の書き方セミナー(基礎編)」(能率協会)
8. 2015/01/07 「科学論文英語ライティングセミナー」(北海道大学)
9. 2015/05/13 「理系学生向け英文ポスタープレゼンテーションセミナー」(名古屋大学)
10. 2015/06/08「科学英語を正確に書くための基本と実践講座(Ⅱ)」(北海道大学)
11. 2015/06/17「英語論文」の書き方セミナー(基礎編)」(能率協会)
12. 2015/07/08「英語論文」の書き方セミナー(応用編)」(能率協会)

その他:工業英語協会でのセミナーなど。

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興野先生は弊社でも論文専門の翻訳者としてご活躍されています。
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